第60回宝塚市展講評 

総評

審査委員長 辻 司

今年は第60回記念展の年であります。至難を乗り越え引き継がれてきた尊い市展の歴史を顧みつつ、それをバックボーンに又新しい時代に向かって飽くなき挑戦と新鮮な想像力を育んで参らねばならないと意を新たにしたいと思います。
審査当日は、吹雪が舞い初積雪の雪景色の一日でした。審査員一同新雪のごとく頭も心も真白にして審査に携わりました。総出品数586点。うれしいことに去年より増加しました。厳選の結果429点の入賞・入選を決めさせていただきました。若々しい感性のぶつかり合いが見られフレッシュな緊張感と充実が魅力の展覧会になったと思っています。特に彫刻・立体造形部門で力強い上に心の温もりを感じる佳作が目に止まりました。新しい造形への希望がふくらみます。デザイン部門でも若い感性が豊かにキラメキを放っています。書部門は写しから独自性の表現への黎明の時代に。工芸部門は多種多様な素材を駆使しつつ技巧を超えた自己表現の模索が見られます。写真部門は世界的なテロの恐怖や社会意識の変化の中、それぞれの工夫に基づいた取材を通し心の拡がりがあり、今年も組写真に秀作を見付けました。日本画部門は一番の出品増で厳選になり爽やかさとしっとり感が増したようです。洋画部門1部はベテランの頑張りに加え斬新な表現の試みがあって注目です。2部は新しい人への過渡期でしょう。多様性を見せる裾野の拡がりに期待します。
今回の記念賞は財源の乏しい中浄財を仰ぎ工面しました。少額ですが私共の思いをお汲み取りいただければ幸いです。さりながらテーマの設定の難しさを痛感しました。宝塚らしさがかえって作品の意図を一元化して単なるモニュメントや建物の写生に終った作品を散見しました。必然的にテーマ性より、作品の質で選ぶことになったのではと思われます。この点の課題の見えた記念展でもあります。先の不確実な時代、しっかり根を張った勇気ある創作への情熱をぶつけていきたいものです。

 

洋画部門

中 辻 悦 子

■入賞作品についての講評■

【一部】
[市展賞] 萩野敦子さん 「African Feeling」
  プリミティブで民族的な躍動感が力強く表現された作品です。審査員多数の票を得て市展賞に輝きました。
[優秀賞] 岡本善弘さん 「ヒステリック」
  鑑賞者が自己投影出来る普遍的な作品を目指す人物像は若者が抱える内面をどのように引き出すのでしょうか。
[優秀賞] 九坪榮美子さん 「遊・遊」
  伸びやかで愛すべき表情と全体的に暖かい色合いが心を癒す作品になっています。リズム感もあって昨年に続いての優秀賞です。
[鉄斎美術館賞] 奥村誠さん 「四人」
  スナップ写真のようなさり気ない一瞬を切り取って色分解の手法を絵画に置き換えた異色の作品です。
【二部】
[優秀賞] 相良みつよさん 「見えない法則を探して(ハガキ413枚と)」
 見えないものの気配の断片を感じるままに表現してコラージュした作品。はがき413枚が探求心を想像させてくれます。
[優秀賞] 篠原滋生さん 「混合風景」
  物質感の強いオールオーバーな表現のなかに混沌とした景色の広がりを感じることが出来る作品です。
[優秀賞] 末久聰子さん 「戦ぐ」
 無彩色で白一色のシンプルな表現です。レリーフ状になった中心がひらひらと風に戦ぐイメージを象徴。ライティングの陰も効果を担っています。

■全体的な総評■
 第60回を迎えた今回は全体の応募数も増え市展への関心が高まっていることは大変喜ばしいことです。洋画部門の記念賞には[一部]から村井紳浩さんの「trans plantation」が選ばれました。版画の手法を使った未来への暗示的な作品です。[二部]は残念ながら飛び抜けた作品がなく市展賞を見送ることになり優秀賞と奨励賞を増やすことでより多くの方々に今後の制作への意欲を燃やして頂けるよう配慮しました。スペースが許せばアンデパンダン(無審査の展覧会)にしたいと思う程それぞれの作品から熱意が伝わってきます。作品はよい時と不出来な時がありますがそれは自然なことで続けることが新しい結果を生むことになります。表現は多様化の時代ですが平面作品の可能性はまだまだあると思います。未知を模索することはたのしいことです。

彫塑・立体造形部門

大 野 良 平

■入賞作品についての講評■

[市展賞] 桶本忠弘さん「虫たちの世界」
 単純化された樹木に見立てた円柱の支持体に、有機的な植物の葉が芽生え、鳥が宿り、数多くの昆虫たちが集う。金属素材の特性を活かした秀作となった。
[優秀賞] 上野山継二さん「山派(やまは)」
 鉄板を溶断しグラインダーで磨く行為の痕跡から見えてくるモノ。表情の異なる鉄板を重ね合わせることで人々に遠くに見える山々の稜線を想起させる。
[鉄斎美術館賞] Samさん「煩悩の群魂を喰らう光の鳴く前で」
 金属メッシュで形づくられた人々が荒廃された建造物に群がりうごめいている。見るものに地獄絵図を連想させ、作品から物語性を引き出すことに成功している。
[奨励賞] 水野千秋さん「ひかるくさびらとうまるたからのつかづか」
 流木片や石膏片などから水晶や茸の様なものが生えている。まるで太古の遺跡から発掘された断片のよう。それぞれに表情があり詩的で愛おしさを感じる。
[第60回記念賞] 奥村誠さん「ざわめく」
アルミ板を巧みに曲げ繊毛のような上にのる球体。都会的センスに溢れ、煌びやかなイメージが今回の賞に繋がった。

■全体的な総評■
彫刻・立体造形と名称を変更して最多の応募点数となりました。作品の質も向上し、多種多様な作品が集まりました。スケールの大きい意欲作も出品されるなか会場の狭さが残念なところです。今回の出品作にはふたつの傾向が見られました。ひとつは作品から自然への広がりを感じさせる遠心的な作品。もうひとつは作品から自分の内面をみつめる求心的な作品です。そういった意味でバランスのとれた展示空間となったのではないでしょうか。さて、今回特設された第60回記念賞「宝塚らしさをイメージさせる作品」の選定についてです。テーマにあわせた作品も数点応募されましたが、説明的な要素が邪魔をして残念ながら受賞を逃した作品があったことを申し添えておきます。
 

写真部門

吉 川 直 哉

■入賞作品についての講評■

審査の結果、満場一致で3点組みの作品「魅惑劇」が市展賞になりました。カラフルでエキゾチックな人物の表情を的確なフレーミングでとらえ、それを活かしたフィルター効果のようなグラデーションが画面を引き立たせています。優秀賞の一つ目は、「眠らぬ街」。テクニカルな画像処理で、スケール感があふれた工場群の夜景を魅力的に引き出している作品です。同賞二つ目の「千載一遇のチャンス」は、まさにシャッターチャンスの勝利です。具体的などんな現象をとらえたのか審査で話題になりましたが、見ている私たちに明るい未来や夢を与えるイメージとして、とても優れているという理由で、宝塚市のイメージにふさわしいと、第60回記念賞とのダブル受賞になりました。優秀賞の三つ目は、「夕照の頃」。ゆったりとした時間の中で、池に浮かぶ植物の花が夕日に照らされ、その向こうに歩くカップルの会話が聞こえてきそうな気持ちのいい作品です。四つ目の優秀賞「夢の中」は、現代社会を象徴的に映し出した作品で、都会の中で人と光とモノが擦過する一瞬を見逃さない作者の視点が優れています。鉄斎美術館賞は、3点組みの作品「むかし懐かし」になりました。由緒ある特別な家屋を撮影取材したものでしょうが、画面の隅々まで気を配った撮影、画像処理、編集までの丁寧な作業が素材を十分に活かしています。奨励賞4作品は、まず「シャルウィダンス」。シーンの状況がわかりませんが、被写体にも恵まれ、その表情を上手く画面に収めています。「宵宮の舞」は、祭に参加する人々の動きをバランスよくとらえた魅力があります。「立ち向かう」は、海外取材でしょうが、後ろ姿ながら荒波に向かう人の一瞬のエネルギーを冷静にとらえています。「浮遊空間」は、建築物の鏡面にユニークに映る人々の仕草に加え、大胆に作者も写り込み、それでコミカルな画面が完成しています。ぜひシリーズ化してほしいと思います。

■全体的な総評■
応募点数は前回とほぼ変わらず、年々、テーマや被写体がバラエティに飛んでいることは大変喜ばしいことです。社会意識の変化とともに、人物を撮った作品が発表し辛い時代ですが、応募作品を見渡すと、人物やスナップもたくさんあり安心しました。スナップは写真の基本です。これからも、エチケットを守り、被写体に十分配慮しながら、スナップ写真に取り組んでください。その一方で、もっと組写真の研究をしてほしいという意見が審査員からありました。組写真は単写真以上に写真の力が必要です。単写真で力が弱いから組写真にするという安易なものでもありません。また、同じ傾向の写真を集めただけでも作品にはなりません。もう一つ苦言を呈すると、作品の題名も研究してほしいという意見が出ました。作品の題名は、「作品を過不足なく説明する最小単位のことば」です。もちろん、作品内容が第一ですが、作者が視線を向けているものは何かを示すのは題名ですから、それにも力を注いでいただくと、なお作品の魅力が増すでしょう。
 

デザイン部門

多 留 利 治

■入賞作品についての講評■

・竹中豊秋さん、「絵本「おやすみなさいお月さま」」は、ほのぼのとしたモチーフが楽しめる絵本作品。市展では絵本作品は初めてあり、明確な目的性を評価します。こうした傾向の応募を期待したいものです。
・田村秀和さん、「夢のつづき」はユニークなキャラクターがアニメーションのストーリー性を感じます。無彩色に英字タイトルとローソクの火はこの次の画面を創造しイメージが広がります。
・池上 眞さん、「“暖かいねぐら”」は水鳥を包んだ巣の切り絵と作品タイトルに納得させられ相乗効果を上げています。
・水をもやすさん、「古いりんご」は注目すべき作品です。しかし小作品は1点のみでは表現力が弱く数点の連作で演出する必要があります。
・その他、酉のポップART、切り絵、太陽と月の連作など完成度の高い作品が楽しませてくれます。

■全体的な総評■
デザインのジャンルは幅広く、ファッション、ジュエリー、工業、建築・・・今ではライフデザイン(生活スタイル)にも使われます。
市展ではグラフィック、イラストレーションが多く出品されています。。語源は「光をあてる」意味であり作品を通して分かりやすくすることです。例え抽象的なパターンだけでも作者の意図することを作品の中にタイトルや解説を入れることで、見る人とのコミュニケーションが図れます。今回その工夫があるともっと評価が高まる作品が見られました。

 
 

書部門

米 幸 峰

■入賞作品についての講評■

まず、30年審査させて頂いて、美の表現の出しかた等が変わって来たのは、時代の流れか、又は考え方が変わって来たとしか・・・。審査の難しさを感じます。
書の世界だけではなく、それぞれの作者が時代の変化の中で変わって来たとも言えます。今まで思いつかなかった事、考えようとしなかった事等、どんどん変わって来たように思います。何を表現するか、したいのか、新しい方向を見つけて出品するのもよいのではないかと思います。

■全体的な総評■
全体的に出品点数が昨年より少なくなりましたが、作品のレベルは、昨年より上がりました。まず考えての作品が多くなりました。変化した大きな原因に、書の表現の仕方が変わって来た事と、表現方法に目的がはっきりわかる作品が少しずつ多くなって来た事があげられます。これは作者が書の芸術性を考え、作品の中に取り入れるようになって来たと思われます。書の作品を、自分の考え、思いの中で創ろうとする新しい時代が来たように思います。(手本と同じように書くのではなくて、自分の考えの中から作品を作って行く時代が近づいて来たように思います。)

 

工芸部門

秋 山 文 子  / 香 川 弘 一

■入賞作品についての講評■

[優秀賞] 井上路久さん 「波風」
 昨年に続き受賞されました。イメージを素材を通してストレートに表現されてます。
[優秀賞] 奥田雅康さん 「紫陽花の季節に君を想う」
 色のバランス、しっかりした技術と造形によって作られ、嫌味なく香気を感じさせ、完成度の高い作品です。
[優秀賞] 藤本日生さん 「尾鰭」
 曲木技法を用いた本立てだそうです。ユニークな形で独創性を感じます。
[鉄斎美術館賞] 嶋本博文さん 「黒釉帯条紋大皿」
 丁寧な仕事で完成度の非常に高い作品です。大きさも色も迫力を感じます。
[奨励賞] 岸川博人さん 「麻ノ葉文面取花器」
 一見大胆に見えて、きっちりとした仕事をされてます。故に面取りの上面と下面のコントラストが美しいです。
[奨励賞] 斉藤美和子さん 「未知」
 自分の生活に取り入れようと楽しんで作った感が伝わって来ます。素直に好感が持てる素敵な作品です。
[第60回記念賞] 橋本大輔さん 「みんなで」
 白化粧かき落とし、大変手なれた感じです。作品の裏まで気くばりができていてオシャレです。

■全体的な総評■
 創作活動を繰り返しながら市展も60回記念を迎えました。応募作品は陶芸をはじめ布、ガラス、木、人形と、バラエティーに富み、素材の持つ特性を生かし、各分野に亘り力作ぞろいで審査は苦労しましたが、どの作品も情熱が伝わってきて嬉しく思いました。
 

日本画部門

潮 見 冲 天

■入賞作品についての講評■

[市展賞] 鷲見佐枝さんの作品、今を捉えて描く感覚と視点が良く、特に手前の川の表現が見せどころとなっています。何と言ってもこれ見よがしでない色使いに好感が持てます。
[優秀賞] 渡辺天弓さんの「長老たち」は中東当りに旅した光景と思われますが、人の集まりで土地柄を示すあたり、絵作りの優秀性が認められます。
[優秀賞] 森川絹子さんの「卓上」は統一感のあるモノトーン乍ら渋さを出している。卓上にはさりげなく配した物と遊び心で処理された表現はお見事です。芸術性が高く、実に魅力ある作品です。これからも独自の世界で描き続けて下さい。
[鉄斎美術館賞] 森本悦子さんの「仲良し」は描いた2人の顔の表情が豊かで好評です。色使いも良いのですが、人物のヘアーとバックの処理が一体化してしまった事が残念です。勉強の課題にして下さい。
[奨励賞] 加藤美奈さんの作品「奥山」は実にすばらしい。ただ、前衛的ですので、画題の奥山は観る側のイメージに合わない様に思います。
[奨励賞] 菊池美保さんの作品「想馬灯のひととき WindyはYukoが大好き!」は馬の目に情感がにじみ出ています。
受賞作品は上記の他佳作賞4点があり、色の統一感等実力ある「Tailflower」・やさしさ、叙情あふれる「つわぶき」・「深々と」雪降る城崎を描いた作品・そして斬新な「アドレアの廃墟」の入賞となりました。尚、60回記念賞には宝塚らしさを表現された「乙女のファンタジア」が選ばれました。

■全体的な総評■
この度は60回記念という事もあり、例年を上廻る応募数のため、入賞出来なかった作品が多く、残念な結果となりました。中でも「初夏」「祈りの郷II」「彼岸花」を描いた作品や「清涼」など水墨の優秀な作品等も多く窺われ、今後に期待が高まるところです。総じて日本画は伝統の技法の中で飽くなき挑戦心を持って描き続けて下さい。墨に至りましても同様の事が言えると思います。ただ、描くだけでなく、何を描きたいのか、描きたいものをよく把握し、上手く描くのではなく、心を込めて描く事を心掛け、そして創作力を養って下さい。そうする事で次に繋がって参ります。期待しております。